サヴァン症候群が主役の映画!それだけが僕の世界

公開当日、「それだけが、僕の世界」を観てきました。サヴァン症候群の映画というところに惹かれて観たんですが・・・。観ながら、いろんな思いが去来して・・・、ほっこり、あったまってきました。

今回の映画、監督の思いは、「誰もが感動できる映画を!」でした。

そんな監督のオファーを受け、主演を演じる3人は、一も二もなく快諾したと言います。

兄役には、ハリウッドでも活躍する実力派 イ・ビョンボンが、弟には、若手の演技派 パク・ジョンミン、母役は、ベテラン ジュ・インスクです。

母と再会した兄は、ピアノを弾くのが大好きなサヴァン症候群の弟と共にいることで、彼のピアノに突き動かされて、見失っていた自らの人生と母の愛を取り戻していきます。

上映中は、終始、暖かな笑いの波が劇場内に広がっていました。

こんな自閉症の子、いるよね!

〇〇ちゃんみたいだぁ・・・

息子の通っている学校には、実際、こんな感じの自閉症のお子さんが、たくさんいます。手をひらひらさせたり、いびつに指を曲げてパチパチ拍手したり、地に足がついていないフワフワした感じとか・・・。一見おどけているように見える仕草とか・・・。何を考えているのか、焦点のあってない目の表情とか・・・。

うんうん、そうそう、こんな感じ。共感できるお母さん、多いんじゃないでしょうか?

パク・ジョンミン演じる弟ジンテは、本当に自閉症そのものでした。ポーッとしているだけのようで、実はすごく細部にこだわった演技をしているように思います。自閉スペクトラム症に関する専門書を何冊も読み、実際にボランティアにも参加して役づくりをしたとか。

自閉スペクトラム症のことを、“世の中と疎通するのは苦手だけど、その中で自分の世界をつくっていく人物”と感じたと、その通りの世界観を演じてくれました。ジンテへの理解と愛情が、彼の見せる演技のそこここに溢れています。

そして何よりもピアノを弾く姿は圧巻です。素晴らしい以外の言葉が見つからないほど、演じているということを忘れさせてくれました。

見終わって、公式HPを眺めていたら、ピアノを3ヶ月猛特訓したとありました。

スクリーンの中では、本当にジンテが超絶テクニックで弾いています。えっ!3ヶ月でこんなに弾けちゃうの~!

もう、びっくりです!!!

サヴァン症候群の人は、楽譜が読めなくても、一度聞いただけで完コピするとか、普通は努力でカバーするところを、天才的な資質で難なく弾けちゃうわけですけど、それを本当はサヴァン症候群じゃないパク・ジョンミンが、ピアニストじゃない俳優のパク・ジョンミンがこんなに弾きこなすなんて・・・しかも、自閉症の演技をしながらですよ・・・。

これ、逆にすごくないですか? 

恐るべしパク・ジョンミン。

サヴァン症候群でもないのに!です。サヴァン症候群の人が弾いていたなら、逆にこんなに驚かなかったような・・・もう、なんだか、何に感動したんだか、わからなくなりました笑。

コンサートの演奏中に嬉しそうにぴょんと跳ねるシーンがあるんですけど、それも、本物の自閉症ならそうするだろうなぁという仕草なんですよね。

彼の演技は、ほかにも、いたるところに自閉症らしさが垣間見られて、私はなんだか嬉しくなりました。リアルな演技に頷けること受け合い!自閉症の方もご家族の方も、楽しめる映画になっています。

それに、終盤のコンサートシーンのクライマックスは、自閉症に思い入れのない方でも、文句なく感動です。自閉症の人が弾いているというストーリーを抜きにしても、劇場内の誰もが涙無くしては見られない、感動しないわけにはいかない仕上がりになっていました。

監督は「すべての人が共感できる映画、頭よりハートが先に反応するような映画を作りたい」と。セリフの妙でもない、劇的なストーリー展開でもない、音楽の持つ圧倒的な力で、誰もが希望をもらえる、映画の醍醐味を感じました。観てよかったなぁと素直に感じましたよ!

自閉症の弟が、傷ついた兄と母の愛をつなぐ

兄と弟と母と、共感できる家族の姿

 では、ネタバレしない程度にあらすじを・・・

この映画では、あのイ・ビョンホンが、いつものハードボイルドな役とは一味違う、切ない役どころの兄役ジョハを演じます。ジョハは、チャンピオンにまでなった元ボクサーでしたが、落ちぶれて、ネットカフェに寝泊まりするような、その日暮らしの毎日を送っていました。

ある日のこと、偶然入った食堂で、そこで働いていた母インスクに17年ぶりに再会します。夫のDVに耐えきれず、自分をおいて出ていった母。彼は、ユン・ヨジョン演じる母が、自分を残して家を出たことに傷つき、許せない思いを抱きながら、ずっとひとりで生きてきたのでした。

住むところのないジョハは、再会を機に一緒に住みたいと願う母に請われるまま、母の家で暮らすようになりますが、そこにいたのは父の違う弟、自閉症でサヴァン症候群のジンテでした。

自分が欲しかった母の愛を一身に受けてきた弟。

戸惑いつつ始まった共同生活・・・・

これはあくまでも私の感想ですが、17年ぶりの母子の間を取り持ったのは、自閉症の弟、ジンテだったのだと思います。家族3人の新しい生活は、無邪気なジンテの存在があったからこそ・・・、これが、もし、母とジョハだけだったら、過去のわだかまりを解いて、一緒に暮らせていたかというと、それは難しかったのではないかと思うんです。

兄弟2人のコミカルなやり取りは微笑ましく、劇場内には暖かな笑いが起こっていました。ちぐはぐではあるけれど、息子たち2人の姿が母インスクを癒し、観ている私たちも同様に和ませてくれました。

そして、楽しそうにピアノを弾くジンテの無心な姿に、兄ジョハの頑なだった心が動かされて・・・。

こんなふうに、この映画には、障害者とその兄弟、家族が共感できる断片が散りばめられています。母インスクは、ジンテが心配でたまらないんです。障害者の母としては、共感するところが多々あり、なんとも身につまされました。

たとえば、ジョハの言い分も聞かず、母インスクがジョハを怒るシーンがあります。ジョハとジンテが2人で外出して、ジンテが我慢できずに路上で用を足してしまうんです。そして警察沙汰になるんですが、母はこのとき、心配のあまり、一方的にジョハをなじってしまいます。このときのジョハは、なんとも言えず傷ついた表情をするんですよね。弟がしでかしたことで警察沙汰になったとは言い出せず、母の怒りを黙って受け止めるんですが、そこにあるのは、不当に母に怒られるが不満なのではなくて、母の愛がジンテにはあって、自分のものではないと改めて気づかされた・・・そんな、いたいけな表情をします。

実は、これと似たようなこと、障害者の兄弟は少なからず経験しているんじゃないかなぁと、思うんですよね。

障害を持つ子が生まれると、どうしても手のかかる障害児が、家族の中心になってしまうことが多いんです。ジョハと似たような気持ち、自分は親から大事にされていない、と寂しい気持ちになったこと、兄弟姉妹の方々には、経験があるように思います。

近所の大家さん母娘、身近な他人の存在

他にも、韓国映画ならではなんでしょうか?、情感溢れるキャラクターが、いい雰囲気の明るさを作り出しています。

私としては、大家さんの母娘の存在が嬉しかったですね。3人が暮らすアパートの大家さん母娘。最初は家賃を値上げするとか脅すので、憎まれキャラなのかと思いましたが、近所の顔馴染みとして、ジンテにも家族にも、普通に接していて、自然なコミュニティができていることが映画の中のことながら、頼もしく感じました。

また、この映画では、自閉症を重く捉えていません。自閉症の人にとっては苦手とされるコミュニケーションのズレさえも、ユーモアたっぷり!ほのぼのした明るい笑いに変換されています。

それに、韓国の女性は強くて明るいんでしょうね。大家さん母娘も、お母さんのインスクも、とっても賑やか、強く明るいキャラクターで描かれています。

全部が全部ハッピーエンドじゃないけれど、小さな希望がいたるところにあって、差しのべられる救いの手もあって、それだけが僕の世界だとしても、すてたもんじゃないんじゃないかな・・・そんなふうに、この映画が纏っている明るいトーンに励まされた気がしました。

自閉症を描く映画は、ほかにもいろいろ!

障害者を描いた映画の中でも、自閉症やサヴァン症候群を描いた映画やドラマは、結構、数があります。特に、この頃、どんどん増えているような気がしているのは私だけかなぁ。

『レインマン』

サヴァン症候群を一躍有名にしたのは『レインマン』ですね。ダスティン・ホフマン演じる自閉症のレイモンドとトム・クルーズ演じる弟のロードムービーです。当時はセンセーショナルでした。そういえば『レインマン』も兄弟の話です。

『グッド・ドクター』

また、同じく、サヴァン症候群といえば、昨年、日本でも山崎賢人主演でドラマになっていた『グッド・ドクター』があります。おにぎりを美味しそうに食べるのが可愛くて印象的でした。このドラマ、最近知りましたが、実は韓国ドラマのリメイク版だったんですね。アメリカ版にもリメイクされているようで、どちらも評判が良いみたいです。

『僕と世界の方程式』(原題:『X+Y』)

こちらは、数学オリンピックのドキュメンタリーをもとに作られた映画。実際にモデルの方がいます。原題の方が内容にピッタリマッチしているんじゃないかと思います。数学オリンピック出場者には、自閉症の子が多いみたいですね。主人公のネイサンが少し不安になると、映像が、彼自身が感じている視覚世界のようになり、自閉症の世界が垣間見られます。

『500ページの夢の束』

こちらは残念ながら観たかったんですが、観ていません。去年(2018年)の秋に公開された映画です。主演はダコタ・ファニング。彼女は、2001年公開の『アイ・アム・サム』(I am Sam)で、知的障害を持つ父親の娘役を演じ、いくつかの賞を受賞していますね。この映画では、彼女自身が自閉症の女性を演じています。

「スター・トレック」が大好きで、その知識では誰にも負けないウェンディの趣味は、自分なりの「スター・トレック」の脚本を書くこと。ある日、「スター・トレック」脚本コンテストが開催されることを知った彼女は、渾身の作を書き上げるが、もう郵送では締切に間に合わないと気付き、愛犬ピートと一緒にハリウッドまで数百キロの旅に出ることを決意する。(あらすじを引用)

『僕と魔法の言葉たち』

2歳の時、言葉を失った自閉症のオーエンが家族のサポートのもと、大好きなディズニー・アニメーションを通じて言葉を取り戻していったドキュメンタリー映画。

以上、最近のものをいくつか、紹介しました!

自閉症を演じるために

自閉症を演じる俳優さんは、今回のパク・ジョンミンに限らず、相当な努力をして、自閉症を理解しようとしてくれます。

挑戦するに値する難解な役どころとして、多くの俳優さんが、二つ返事で、是非ともやりたいと言ってくれます。彼らの自閉症という存在を理解しようとする態度には、本当に頭が下がります。同じ障害を持つ子の親として、とても嬉しいことです。

極悪非道な悪人や理解を超えた犯罪者の役だとしても、「演じる」ということは、まずはその存在を尊重する、存在することを受け入れないと始められないと思うんです。

自閉症を演じる俳優さんは、演じようと思ったときに、自閉症の世界の存在を肯定してくれるわけですよね。

自閉症の人にとって、理解されること、受け入れてもらうことは、生涯のテーマなんじゃないかっていうほど、本当は、コミュニケーションに餓えていると思うんですよね。

自閉症の人は「僕だけの世界」でいいとは本当は一番思っていない人なんだと思います。本当は「僕の世界」は広がって欲しいと、理解して欲しいと思っている人なんだと思うんです。

ドラマや映画の材料になるのは、センセーショナルな天才性を持つ一部の人たちだけ、現実とはかけ離れていると懸念される向きもあると思います。映画に出てくるタイプは、こんなの軽い方、現実はもっと厳しい、自閉症の子を持つお母さんの、本当の苦労は、わかってないと言われるかもしれません。

それでも、少しでも障害というものを、多くの人が「知る」、手立てにはなると、私は思っています。

俳優さんたちの、演じたいという衝動からでもいいんです。それを彼らが表現して、観る人に伝わって・・・

そういう俳優さんたちの努力、素直に嬉しくないですか?

今回の映画を観ていて、私は素直にそう思いました。

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