就労支援B型の月給は1万円って本当ですか?

先日、ある事業所に見学に行き、ショッキングな話を聞きました。

「利用者の方に交通費は支給されないんです。近隣から通う方がほとんどです。遠くから通いたいという方がいても、なかなか実現しないですね・・・」

交通費が支給されないのでは、近所の事業所を選ぶしかないということになってしまいますよね。

月給が1万円というのは、よく聞くので、だんだん慣れてきましたが・・・

そうか〜・・・交通費すら出ないのかー。

こんな実情があるなんて、思ってもみませんでした。

事業所としては「利用者を増やしたい!」、利用者の側でも「通いたい!」、でも「家から遠い」・・・こんな理由で通所が実現しないことがあるようです。

私はびっくりしましたが、福祉業界では当たり前のことのようで・・・なんだか憤懣やるかたない気持ちになってしまいました。

 

就労支援の事業所に感じていたこと

就労支援の事業所に見学に行くと、いつも違和感を感じていたんです。

  • 働いている障害者の方を、「利用者」と呼ぶこと。
  • 事業所で働くことは「サービスを受けている」と言われること。
  • 働いて支払われる賃金のことを「工賃」ということ
  • 作業を指導するスタッフの方は、「指導員」と呼ばれること。
  • 事業所に通うことを、通勤ではなく「通所」ということ。

いわゆる一般的な「働く」イメージを持って就労支援事務所の説明を受けると、「???」疑問符ばかりが浮かんでくるんです。

まず、福祉的な就労の仕組みを理解するのに時間がかかるというか、説明を聞く親の側に、認めたくない気持ちもあるのかもしれませんが、なんとも腑に落ちない思いが、いつも残ってしまうんですよね。

障害者の親御さんで、こんなふうに思うのは、私だけではないように思います。

いくつかB型事業所を見学して、この頃やっと慣れてきたものの、未だにこの違和感は拭えません。

そして、慣れてきたと同時に、月給が1万円になってしまうのは、この仕組みだからだったんだ、無理もないと、思うようになりました。

どういうことかというと・・・

それは、つまり、就労継続支援事業所は「利益を出すことが目的ではない」から・・・ということなんです。

就労を支援することが目的である

目的が違うというだけで、こんなにも様子が違ってくるんですね。

普通の会社は、非常にシンプルです。

「製品やサービスを作って売る」、目的は利益をあげるためです。

普通の会社は、当たり前のように営利を目的としています。

すべての業務は売り上げ向上に集約されていきます。

会社は、売り上げのためだったら、惜しみなく投資もするでしょう。



じゃあ、就労支援事業所はどうでしょう。

就労支援の事業所でも、同じように「製品やサービスを作って売る」ということをしています。

障害者にとっては働く場であり、働くことが目的です。

ですが、事業所にとっての業務は、あくまでも就労支援です。

事業所内で、サービスをする側(事業所)とサービスを受ける側(障害者)、2つの立場があって、サービスのやり取りは、事業所の中ですでに完結しているんです。

事務所にとっての売り上げは、利用者の人数を増やし、福祉サービスをすること、それによって基本報酬を受け取ることができるので、製作している商品が売れなくても、成り立って行けるのです。

言うなれば、利用者はお客さま的な立場なんですよね。

事業所と利用者は、目的が同じにならない・・・こう目的を一つにして一緒にはたらく同僚や仲間とはならないんです。

そこには明らかな一線があるのが、よく分かります。

事業所は利用者のさまざまな目的を支援するところ

では、利用する障害者の側の目的には、どういうものがあるのでしょう。

  • 家を出て、自立すること
  • 通うこと自体が目的
  • これからの仕事に必要なスキルを身につけて一般企業に就職したいと思っている
  • 事業所で行なっている業務内容が好きだから通っている
  • 週3回だけ通所したい
  • 自分の作品を作りたい
  • パソコンや事務の仕事がしたい
  • 月々のお給料をもらいたい 
    ・・・etc

通ってくるみなさんには、その人それぞれの目的がありますね。

こんなに目的がさまざまですから、やることが統一されないのも無理からぬ状況でしょう。

就労支援の事業所としては、利用者のこのような多種多様なニーズに対応して、働くことを支援するのが、本来の姿なのでしょう。

つまり、そもそも、売り上げを目的としていないのですから、利用者の月給が1万円以下になってしまうのも、仕方のないことなのかもしれません。

平成29年度のB型事業所の工賃の平均は・・・

15,603 円。時間給でいうと、205円。
一番多いのは、10,000円前後の事業所です。
(厚生労働省調べ)

さて、事業所によって、考え方は違うとは思うのですが・・・

この金額をみて、みなさんだったら、どう思われるでしょうか?

月給1万円をどう捉えるか

多くの人が同じように感じると思うのですが、どう考えても「工賃が少ない!」ことにびっくりしませんか?

私も例外ではなく、福祉的な役割である就労継続支援事業所のしくみを知ってからも、やっぱり少ないなぁと感じます。

それは、私だけでなく、利用者さんも同じように思っているんじゃないかな・・・

利用者さんも「収入を増やしたい」「お給料が上がるとうれしい!」と思っていると思うんです。

通所の動機は多様だとしても、でもみんなに共通する目的は、「少しでも高いお給料が欲しい!」だと思うんです。

なぜなら、単純にお給料が増えると、やれることが増えますから。

やりたかったことや趣味に使えるお金が増えるのは、単純にうれしいですよね。

小倉昌男さん、教えてください!

「工賃が少ない」問題を考えると、以前読んだ本、「福祉を変える経営」が思い出されます。

著者は、スワンベーカリーを事業化された「ヤマト福祉財団」の小倉昌男氏です。

「クロネコヤマトの宅急便 🎶」を作った方と言ったほうがよいでしょうか。

今では普通になってしまった「宅急便」ですが、当時としては画期的なしくみだったと思います。

宅急便がない生活なんて、もう考えられませんよね。

小倉氏の本は2003年発行のものです。

就労継続支援事業所という形態が始まったのは2006年ですから、ちょっと現状に合わないところがあるかもしれませんが、根本的なところは変わらないと思います。

2003年当時は、現在の就労継続支援事業所は、まだ共同作業所とか、福祉作業所とか言われていた頃です。

「経営者」小倉氏の目に映った共同作業所は、どうだったのでしょう。

氏がよく知っている日本経済、市場経済からは、まったく外れたものだったでしょうね。

福祉の世界に入って、初めて「福祉的就労」という言葉を聞いたと書かれています。

小倉氏は、そんなことがあるのかと、たぶん、驚かれたと思います。

そして、著作の中にキッパリと書かれています。

福祉的経済も福祉的就労も、そんなものはない。
なぜなら、日本は市場経済で動いている国だから。

いくら福祉でも経営の視点が、どの事業所にも必要だと。

この本は、ヤマト福祉財団が無料で行なっていた、福祉事業者に向けた経営セミナーの内容を本にしたものでした。

副題にも「障害者の月給1万円からの脱出」とあります。

私が小倉昌男氏のこの本から学ぼうと思ったのも、「工賃が少ない現状を、どうしたらいいか」という課題だったのですが・・・

それは、もちろん、学べるのですが、もっと本質的な一番大事なことは、事業者の意識を変えることだったのでしょう。

お金を儲けることは悪いことではない。商品を買った人に喜んでもらうこと。

みんなが喜ぶ商品=すなわち売れる商品

で、売れる商品を作って売ること=社会と繋がっていくことだと。


経営の視点で捉えた、本当の意味でのノーマライゼーションです。

「宅急便」というサービスを社会に浸透させ、会社経営から得た喜びを知っている小倉氏だからこそ、の説得力です。

みんなが喜ぶものを作って成功した実績があるからこそ、確信を持って言えることなんだと思います。

まとめ

さて、私自身のためにも、ちょっと整理してみたいと思います。

まずは、多くの福祉的事業所が持っているであろう、考えられる課題や今回分かった事業所運営のしくみなどをできるだけ洗い出してみます。

  • 事業所の目的は何か。明確にされているか。
  • 工賃月額1万円で本当にいいのか。
  • 事業者がお金儲けは悪いことと思っていないか。
  • 障害者の労働力に限界を感じていないか、可能性を見誤っていないか。
  • 障害者の能力の範囲で売れる商品を作るのか、スタッフを含めた作業で商品を作るのか。
  • 利用者×基本報酬で運営費は賄われている。
    利用者が20人いれば、20人×130,000/月20日通所の場合=260万円。
    週1での通所の人が20人いたとしたら、20人×26,000/月4日通所=52万円。
    工賃は運営費からは捻出できないしくみ。
    工賃は、あくまでも売り上げを頭数で割った金額。
    事業者が運営費で売れるものを作り出す努力をして、売れるしくみができなければ、必然的に工賃は上がらない。
  • 利用者の就労に向けての課題はさまざま。
  • 利用者が増えなければ、運営費も捻出できない。利用者が集まらないことには、スタッフも雇用できない。売れる仕組みを作る資金がない。資金難が解消できない悪循環。
  • 利用者が集まる魅力的な事業所になるには?

うーむ、ここまで来て思ったんですが、事業所も利用者(お客さん?)獲得に苦しんでいるんですよね。

障害側から見ると、きれいな施設で、売れる商品があって、資金繰りに疲弊していないスタッフがいて・・・といった活気のある事業所に通いたいと思いますものね。

親としても、息子が生き生きと楽しそうに働いている姿がみたいですもん。

そういう人気のある事業所は、通いたくても空きがないと断られてしまいます。

人もどんどん集まるので、利用者獲得に悩むこともないんですよね。

お金からも好かれる、お金も集まるというわけです。

なので、やっぱり福祉事業所だからと言って複雑にする必要はないということですよね。

もっと単純でいい!お金が儲かると、単純にうれしくないですか?

障害者だって、原点は一緒です。

自分の作ったもので、喜んでくれる人がいるのは単純にうれしい!

みんながうれしくなれるんです。

小倉氏も、このお金が集まる=社会から喜ばれる、しくみを知っていたんですよね、きっと、しかも確信を持って・・・

それがどんなにうれしいか、本当に知っていたんだと思います。

本には、そうは書かれていませんけど・・・
本当のノーマライゼーションを目指す、みたいなことが書かれてますけど・・・
(本の帯には、真面目な顔をした小倉氏が写ってます・・・)

私にはこう言っているように思われました。

「こんなにうれしいことはないんだよ」と。

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