発達障害の当事者が語る!おすすめ本

ある自閉症の子に会うと、毎回「車種は何ですか?」と訊かれます。
「うちの車は〇〇だよ。」と答えると、今度は「エアコンは?」と聞かれ・・・エアコンの機種なんて気にしていない私は、曖昧に「HITACHIかな?」と答えると・・・、

「シリーズは何?品番は?」
「えーと、うーん、白くまくん?かな~?」

そんなやりとりを2、3繰り返したあと・・・
彼は、唐突に身体を傾げて、跳ねながら去っていきます。

こんな会話をしていると、自ずと疑問が湧いてくるんです。
自閉症や発達障害を一体どう理解したらいいんだろうか・・・

息子の学校に行って、子どもたちと会うたびにいつも思っていました。
なんとなく知ってはいるけれど、この子たちの本当のところを、全然わかっていないんだよなぁ・・・。

彼らと会って話をした後は、いつもモヤモヤした後味を感じてしまいます。
もっと理解したい欲求が、確かにあるのですが、私にとって自閉症の彼らは、なんとも理解しがたい、実態のつかめない存在でした。

今回、自閉症当事者の方が書いた著作をいくつか読んでみることにしました。
お医者さんや研究者など、外側にいる人ではなくて、内側にいる人が書いたものです。

発達障害?研究の歴史はまだ浅い

自閉症についての最初の報告がされたのは、1943年です。
アメリカの精神科医レオ・カナーによる論文で初めて自閉的障害という表現がされました。

時近くして生まれたのが、生年1947年の「テンプル・グランディンさん」です。
彼女は、自閉スペクトラム症と診断されながら、独自の発想を生かした「非虐待的な家畜施設」を設計した動物学者です。
自身の自閉症について語った本や、半生をつづった映画もあります。
世界一有名な自閉症当事者と言えるでしょう。

彼女は著作の中で、最初に診察に行ったのが精神科医ではなく、神経科医のところで、本当にラッキーだったと述べています。

当時は、自閉症という言葉は、まだ知られていない時期でした。

「ものを壊す」「しゃべれない」「触られるのを嫌がる」「目を合わせない」「笑わない」などなど・・・

今では典型的な自閉症と診断される症状ですが、そもそも自閉症という概念がないですから、グランディンさんのお母さんは、娘を神経科に連れて行くという選択をしました。

そして「脳損傷」と診断されたというのです。

神経科のお医者さんからは、対症療法として、言語療法士を紹介してもらったと書かれています。

そして、グランディンさんがいうには、

これがわずか10年あとだったら、医者は、まったく違う診断をしていただろう。私を診察したあと、病気は精神的な問題で、すべて心の中にあります」と母に告げて、私を施設に送り込んでいただろう

2019年の今だから言えることですが、「発達障害は心の病気ではない」んですね。発達障害は、脳の器質的障害なんです

「脳損傷」という診断も決して正解ではありませんが、心の病気と診断されるより、はるかにマシな状況だったということでしょう。

10年後に生まれて、そのときの時流の診察をされていたとしたら、グランディンさんは、違った人生を歩んでいたかもしれません。

そして、グランディンさんが診断されて、およそ70年が経ちました。
現在は2019年です。


では、最新の研究では、発達障害はどのように捉えられているのでしょうか?
ここで、2013年に刷新されたDSMをみてみましょう。

発達障害を定義するDSMってなに?

このDSM、発達障害の本を読んでいると、割と唐突に出てくるんです。

検索すると、DSM=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略で、日本語に訳すると「精神疾患の診断・統計マニュアル」です。

「アメリカ精神医学会」が医師のために作った診断基準ですが、事実上のグローバル・スタンダードになっています。
日本でも、このDSMを使った診断が一般的です。

DSMの初版が出たのが1952年、第2版は1968年です。
そして、このマニュアルに自閉症が疾患として登場したのは、1980年のDSM-Ⅲ、第3版からです。
第3版に、「小児自閉症」という名称で広汎性発達障害のカテゴリーで入っています。

医学界にも、そのときどきの時流があるんですね。。

第2版~第3版の間、つまり、1970年代には、精神医学界は、病気の原因を追求するのをやめて、表層に現れる症状の診断を主流とするようになっていきました。

この流れは、症状を緩和する薬物が発達したことにも起因すると思われます。

発達障害は、症状のチェックリストによって、診断されるようになったのですが、しかし、これには問題がありました。
発達障害の症状は、一見すると精神疾患の症状と似ていることが多く、目の前の患者さんが、果たして発達障害なのか、精神疾患なのか・・・
発達障害の二次障害として、精神疾患が併発している場合もあり、なかなか見分けがつかなくなっていきました。

そして、診断基準には、症状や行動の詳細なチェックリストが必要になってきました。
最初は6項目だったものが、改訂版では16項目に増え、結果として小児自閉症と診断される子どもの数は増えたといわれています。
先日、私が試したチェックリストでは、50もチェック項目がありました。

さて、DSMは、現在第5版が発行されています。
続いて、第3版からの変遷もみていきましょう。

なぜスペクトラムと言われるのか?

第3版が出た翌年の1981年。

ローナ・ウィングが「アスペルガー症候群:臨床的観点」という論文で、現在でも支持されている「スペクトラム」の概念を発表します。

自閉症の特性は、障害者から健常者まで、程度の差があっても、連続的に存在する

という観方です。

発達障害は症状の集合体ではなく、連続体として解釈する方が現実にあっていると提唱しています。

2019年現在、DSMは2013年に刷新され、第5版になっています。
今回
で、各種の精神障害・発達障害が、
『神経発達障害(
Neurodevelopmental Disorders)』
と総称されるようになりました。

発達障害に「Neuro(神経)」がつくようになったんです。

自閉症、アスペルガー症候群などのサブカテゴリーを含む「広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、「自閉スペクトラム症候群」というひとつの診断名に統合されました。

特に、アスペルガー症候群は有病率が低いためにサブカテゴリーからも外され、暫定的に日本では使われてはいますが、事実上自閉スペクトラム症の一部になったといえます。

こうしてみていると、自閉症や発達障害に関する研究は、相当、紆余曲折してきたということがわかります。

発達障害を扱う医療の現場に限ったことではありませんが、その時代の時流によって、観方が全く違うということが平気で起こっています。

診断される疾病名が変わったり、対応する薬も違ったものになったり、療育方法も全然違う方法が提唱されたり・・・。

翻弄される患者にとっては、たまったものではありませんね。
でも、患者さんを診断し治療しなければならない立場のお医者さんとしては、なんとか定義づけて解釈しなくてはならないわけですから、こういうことも起こってくるでしょう。

表層の症状は、薬でコントロールできるのかもしれませんが、でも、発達障害の本質的な原因は、未だに一般的な回答を得ていないというのが現状です。今後も診断基準は、これからも変わっていくのでしょう。

より実態に則した治療法になっていくことを望みます。

テンプル・グランディンさんは、この発達障害の浅い歴史を、身をもって体感されたきたと言えるのかもしれませんね。

発達障害は行動や症状で診断される

発達障害か、そうではないかは、今でも行動の評価によって判断されます。

「対人・社会性の問題」
「コミュニケーションの異質さ」
「行動の柔軟性欠如(想像力の欠如)」

大枠で、これらの症状が、半年以上続いているかどうか・・・という診断基準です。

行動の評価にならざる得ないのは、発達障害の原因がまだ解明されていないからです。

目に見える行動、行為から判断するしかないというわけです。

この診断基準には、やはり問題があるということは、先に述べました。
「典型的な症状が強く出ている」場合は、その通りと診断されますが、2つの障害、アスペルガーとADHDが併発しているとか、二次障害が複数出ている場合などは、障害を見えにくくさせるため、診断がつきにくいんです。

グレーゾーンの人たちが大勢いるというのも頷けます。

実際、わたしもチェックしてみましたが、当てはまるものも少なくありません。あ
る項目については、自閉症の人と同じように感じているかもしれない・・・

「スペクトラム」という解釈をしなければ、自閉症を把握できないということなんでしょうね。

テンプル・グランディンさんの本には、「自閉症のこっちの端にいる人」という表現が出てきます。

「自閉スペクトラム症は、脳から続く神経伝達やそれぞれの脳の受け持つ分野がバランスよく働いていないことに問題である。」

というところまではわかっていますが、症状があまりにも広範囲で、程度の差も、障害者から健常者まで連なっています。
その間のどの辺にいるか・・・、どの辺にいると発達障害になるのか・・・

診断の枠には入らないけど、日常生活に困難を感じているといったグレーゾーンにいる人たちが一番難しいですね。

でも、生きにくさを自覚し、特性を逆に、自分の強みまでにすることができれば・・・

カウンセラーでもある著者は、相談に来たクライアントに、「発達障害でよかったですね。」と話すそうです。

発達障害を克服するには健康が大事

今回読んだ本の著者は、幼少時は、当時日本ではあまり認知されていなかったために知的障害と診断され、その後、自閉症、アスペルガー症候群と変遷して、人生のどん底のような体験をされて、今ではカウンセラーとして活躍している、異色の経歴です。

自分自身で、身をもって困難な体験をして、そこから回復した実体験に基づいた方法は、気持ちが良いほど明快です。

確信があるゆえでしょうか、すこし断定的ですが、その内容は具体的で、即実践につながるといえます。

それは「技術」と言ってもいいものです。

発達障害の人たちは、多かれ少なかれ、日々、困った状況の中にいて、今すぐにでも解決したいと思っているでしょう。

著者は、その気持ちに答える、自分自身で自身の発達障害をコントロールする技術を持っています。

精神論うんぬんではなく、身体的、科学的に症状への効果的なアプローチを行わなくてはなりません。


特に、特筆すべきと思ったのは、その克服するプロセスには「肉体改造」が不可欠であるとしていることです。

発達障害の人は栄養不足や慢性疲労を抱えている人が多いと言います。

神経伝達機能にムラがあるといえばいいでしょうか、代謝が悪かったり、腸内環境が悪かったり、健常な人以上に食事に気をつける必要があると述べています。

実際、グルテンフリーやローカーボを取り入れて、劇的に症状が軽快した例は少なくないと言います。

栄養素を補うためにサプリやプロテインも効果的であることが述べられています。

そして、食事を改善するとともに、体癖・身体の歪みを正し、適度な運動をすること

発達障害の人の多くは、一部の筋肉が偏ってこわばっていたり、動作が不自然だったり、姿勢が悪かったりします。

歪みの癖が極端に身についてしまっている場合が多いんです。

それをまず調整した上で、継続できる運動をしていきます。

これは、発達障害の人たちにとっては、とても有効な手立てだと思います。

整体をしているわたしの経験上から考えても、これは納得できる方法です。

体がほぐれてバランスが良くなると、気持ちも身体も強張りが取れて、スッキリします。

まず身体の健康を考えるのは、理にかなった方法でしょう。

健康を取り戻すことができたら、良くなるにつれて、そのほかの「感情的な問題」や「コミュニケーションの問題」「動作性の問題」などにも取り組めるようになると思われます。

発達障害だとセロトニンが少ない?

発達障害は、脳の器質的障害が原因であることは先にも書きました。

たとえば、人の表情などが読み取れないために、人間関係がうまくいかないなども、発達障害の症状で、コミュニケーション障害と呼ばれています。

性格に問題があるわけでもなく、本人の努力が足りないわけではありません。

生まれつき、脳のどこかに傷がある、あるいは、脳の機能に凸凹があると言っても良いと思います。

その点、テンプル・グランディンさんが最初に受けた診断「脳損傷」は、あながち間違いではなかったと言えるかもしれませんね。

脳のどの部分に障害があると自閉症になるのか、現在の医学ではまだ詳しく特定できていませんが、

  • ホルモンの働きを司る「下垂体が大きい」
  • 右脳・左脳をつなぐ「脳梁の体積が少ない」
  • 「前頭葉の萎縮」
  • 記憶を司る「海馬の縮小」

という研究結果も報告されています。

脳には、視覚・聴覚などの五感や、運動、記憶などをつかさどる神経ネットワークがありますが、発達障害の人の脳は、それらが、うまく機能していない状態と言えるのです。

それが、表出すると、突発的な感情や動作のぎこちなさなどの身体症状となって現れてきます。

また、他にも、脳の中心部近くに位置する扁桃体が常に過活動状態であるとも言われています。

この扁桃体が過活動状態いうのは、常に、副腎が刺激を受けて、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されているということです。

そして、コルチゾールが出続けると、ノルアドレナリンも過剰に放出され、おかげで身体はいつも臨戦態勢です。

ノルアドレナリンは生産速度に限界があり、出続けていると、ついには枯渇してしまい、結果、慢性的な疲労や無気力な状態を招いてしまいます。

幸せホルモンと呼ばれるセロトニンも抑制してしまうので、いつも不安いっぱいで日々を過ごしているという状態です。

この、コルチゾールが慢性的に高く、セロトニンが少ない状態というのは、実はうつ病と同じ状態であると言われています。

発達障害が一番危ういのは、身体のホルモンバランスが過剰な状況を作り出し、ついには精神疾患を併発してしまうという、多重的な状況を作ってしますことです。

次に、この2次障害についてもみていきたいと思います。

知っておきたい2次障害の症状

2次障害というのは、本当に厄介だなと思います。

もともとの発達障害に加えて、成長過程での困難さ、生きにくさによって、本来の症状ではないにもかかわらず、発達障害が緩和しなかったばかりか、精神的なダメージを抱えてしまう・・・ということだからです。

精神的疾病の症状は、発達障害のものと区別しにくいという点でも、気をつけていないと発見が遅れてしまうことがあります。

それに、元々の発達障害にしても、ADHDとアスペルガーなど、複数の特性が併発している場合がほとんどです。

そこに、新たな精神疾患が加わって、障害が複雑になっていくのは、本当に避けたいものです。

また、著者の例ですが、小学生のとき事故にあって、自閉症からアスペルガーへ、障害が変化したとも語っています。
こんなこともあるんですね。

1人の人の中に複雑な状況が多層構造になっているようなものです。

それこそ、色々な場合がスペクトラム状になっているということなんでしょうか。

代表的な2次障害には、うつ病、双極性障害、統合失調症、依存症、睡眠障害、情緒障害、などの精神疾患があります。

たとえば、双極性障害は、多動・衝動性優勢型のADHDと症状が似ていて、併発する可能性もあるので、どちらが原因で起こっている症状なのか、わからない場合があるようです。

双極性障害と思って、薬を飲んでも治らず、同じような症状のADHDだったという例もあります。

「度が過ぎるほどの依存症」や「社会生活に支障をきたしてしまうほどの情緒障害」などは、発達障害からくる2次障害の場合が多いです。

まとめ

息子がダウン症で生まれるまで、障害を持つ人との縁はうすくて、自分の生活圏にはまったく障害者の方はいませんでした。

ましてや自閉スペクトラム症の人は、電車で見かけていても、目に入っていなかったというか、たとえ入っていたとしても「いる」という認識すらありませんでした。

でも、幸か不幸か、息子がダウン症で生まれて、世の中には、こんなに多様な障害があるんだということに、気づかされました。


今回は、自閉スペクトラム症の方に、少し近づけたように思います。

  • 発達障害は、脳の器質的障害であり、心の病気ではないこと
    何かに過敏だったり、記憶の調整がうまくなかったりといったことは、主に脳神経のつながり方によるものでした。
  • 発達障害についての研究の歴史は浅く、原因は解明されていないこと
  • 診断基準が、症状のチェックリストによること
  • 「スペクトラム」といわれる理由は、健常者〜障害者まで、程度や特性が様々であること。ある部分は強調された特性をもち、またある部分は全く健常者と変わらない、むしろ優秀だったり・・・ということ
  • 発達障害と診断されていなくても、それに近い感覚を持っているグレーゾーンの方が多くいること

また、症状を改善させるためには、

  • 身体の健康を目指すと、発達障害の症状も軽快するということ
    今回手に取った本では、体癖という言葉が出てきます。
    これは、野口体操の考案者である野口晴哉さんが身体のタイプを表したときに使っている言い方です(野口晴哉さんの名前はどこにも出てこないので、はっきりそうだとは言えませんが)。
  • 発達障害のマイナスの症状をできる限り目立たなくすること
  • 才能が発揮できる仕事を見つけ、伸ばしていくこと


彼らの内部事情は、想像するしかありません。
でも、機会があれば、ぜひとも話をして肉声を聞いてみたいと思います。

参考文献
『自閉症の脳を読み解く どのように考え、感じているのか』
テンプル・グランディン著https://www.amazon.co.jp/dp/4140816317/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_OATSCb0E27BV9

『発達障害とどう向き合うか』吉濱 ツトム 著
https://www.amazon.co.jp/dp/4788910381/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_aFTSCbREN58PB

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