自閉症の世界!3つの定型的な視覚を疑似体験してきました!

自閉症の人が世界をどんなふうに捉えているのか、前々から興味を持っていました。先日、「ASD視覚体験シミュレータ」のワークショップがあり、運よく参加することができました。

ASDというのは、ー Autism spectrum disorders ー自閉スペクトラム症の頭文字です。

VRゴーグルを装着すると、まるで自分が実際に見ているような・・・より自閉症の人の体感に近い、リアルな感覚を得ることができました。まさに、百聞は一見にしかず、ですね!

さらに、今回のワークショップでは、疑似体験だけにとどまらず、参加者の方々と、得られた感想や気づきをシェアしました。

「この体験を今後の生活や活動にどのように活かせるか。」

みなさん、それぞれに、日々、接するときのヒントを見出せたようです。熱のこもった時間を共有することができました。

VRシミュレータは、こんな装置だった

VR(バーチャルリアリティ)は、アミューズメントだけではなく、こういった使い方ができるんですね。今回のワークショップに登場したのは、「ヘッドマウントディスプレイ型ASD視覚体験シミュレータ」。

大阪大学の「認知発達ロボティクス研究」と東京大学の「発達障害当事者研究」のグループが、共同開発した、世界で初めてのVRシステムです。

その仕組みは、小型カメラで取り込んだ目の前の景色を、自閉症の方が見ているように、瞬時に画像処理し、VRゴーグルのディスプレイに再現していく・・・・・というものでした。

自閉症の人が見ている世界は、非定形でありながら、一定の傾向を持っています。その特性を、画像データに反映するためには、視覚症状と、それを引き起こす環境要因がどのような関係性になっているか、客観的、定量的に数値化する必要がありました。

研究グループの実験では、明るさ・動き・音などの特徴の異なる映像を実際に22人の自閉症の方に見てもらって、定量的な分析が行われました。

自閉症の人の多くが共通して体験している視覚過敏、視覚鈍麻の症状には、6つの典型的なものがあり、そして、それらを引き起こすキッカケ、環境要因についても、パターンがあることが分かりました。

〈6種類の非定型な視覚症状〉
  • 砂嵐状のノイズ
  • コントラストの強調
  • 高輝度化
  • 無彩色化
  • 不鮮明化
  • エッジ強調

※ここであげたすべての視覚症状が、どの方にも起こるわけではなく、また、程度の差もかなりあるようです。

代表的な3つパターン

さて、6種類の中でも、共通の視覚症状のうち代表的なのは、概ね3つ。

①高輝度化

http://cognitive-mirroring.org/asd-simulator/ パンフレットから引用

これは、暗い部屋から明るい戸外に出た時など、明るさにより、コントラストが強調され、ほとんど真っ白な視覚になってしまうといった症状です。

たとえば、スキー場などの高い輝度の場所では、一般の方でも、「まぶしくて目を開けていられない」といった経験があると思います。私たちのまぶしさは、瞳孔の拡大収縮によって自動的に調整されますが、自閉症の人は、その機能がうまく行われていない、この不具合によって「すごく眩しい」という、視覚症状が現れています。

シミュレータでは、ドアを開けたら、世界が真っ白で、だんだんジワジワと見えてきて・・・・・これでは、すぐに動けません。あまり外に出かけたくない・・・思うのも無理はないですね。納得です。

無彩色化・不鮮明化

http://cognitive-mirroring.org/asd-simulator/ パンフレットから引用

2つ目は、今まで見えていた色彩が、大きな動きによって、色が消えてしまって、モノクロになるという症状です。

体験シミュレータで見た映像は、電車が近くを通り過ぎるというものでした。電車が通過するという、大きな動きがキッカケになって、電車の塗装の色が無色になったり、ぼやけて見えたりするのです。

これは、自閉症の人が周辺視野を使っている、ということに起因するようです。自閉症の人は横目で見ることが多いと言われていますが、それも、このためだったのかと頷けました。よく、スポーツ選手が、周辺視野を鍛えて視野を広げるとか、聞いたことありませんか?実際、誰でも周辺視野でも見てはいるのですが、その情報は、脳に伝わってない、使われていないという状況で、スポーツ選手が鍛えるのは、その視覚情報を脳に伝達する回路ということになります。

自閉症の人の場合は、逆に、周辺視野の情報が優位ということ。

そして、周辺視野では、低解像度で無彩色の信号を受けているということがわかっています。

③砂嵐状のノイズ

シミュレータで見た画像。外から人の多い食堂に入った時、自閉症の人の視界には点々が現れている。同時に外と室内の輝度の違いによって、強いコントラストも現れている。室内にいる人の顔がより暗く見える。http://cognitive-mirroring.org/asd-simulator/ パンフレットから引用

これは、動きや音の大きさが変わると、それによって無数の点が現れるという症状です。光る、ときにはカラフルな点が目の前にちらつきます。立ちくらみなどで、目の前がチカチカしたとき、ありませんか?それに似たような体験といってもいいと思います。また、同様の症状は偏頭痛持ちの方にも、現れることが知られています。

シミュレータでは、人でごった返している大学の食堂の映像を体験しました。人の話し声や食器がたてる音、椅子がひかれる音など、とにかく全部の音がすごく近くで聞こえて、頭の中が音でいっぱいになる、処理できないという感じでした。音が大きくて、雑多な音になるほど、視野に点々が現れました。我慢できすに学食を出て、芝生に向かうと、点々はサッと収束して、やっとホッとできた・・・人気のない公園を好んで遊びたがるという、自閉症のお子さんがいて、「そうだったのかぁ」周りからは、寂しそうに見えるんだけど、人気のない公園だからよかったんですね。

※自閉症の感覚世界はyouyubeなどで見られます。

出典:”HOW AUTISM SEES THE WORLD” https://www.youtube.com/watch?v=pX9TcYHW5TY 
出典:Autism TMI Virtual Reality Experience https://www.youtube.com/watch?v=DgDR_gYk_a8 www.autism.org.uk/TMI
出典:Carly’s Café – Experience Autism Through Carly’s Eyes https://youtu.be/KmDGvquzn2k

自閉症の人が身近にいます

体験に来た参加者の多くは、自閉症のお子さんがいる、お母さんやお父さんでした。それから、日常的に自閉症のお子さんを支援している先生、兄弟が自閉症という方、誰もが身近なところに自閉症の人がいて、彼らの行動の根拠がなんであるか、彼らの見ている世界がどんなものか理解したい!という切実な思いで参加されていました。

自閉症のお子さんが、日常的にしている行動は、実際、彼らからしてみれば、根拠があるわけですが、普通(定型発達)の子と比べてしまうと、それは、どうしても不可解で・・・・・どうしてこんなことするの?という方向に思いが行きがちです。

「分からない」ことが、さらに「困ったこと」「不安なこと」を生み、悪循環になってしまいます。我が子のことですから、ことさらに感情的になってしまうこともあるでしょう。でも、その子どもの感覚世界は、理解を超えるものだったんです。これは、分からなくても、仕方なかったんですね。自分の子どもを理解できない、というもどかしさはあるでしょう、でも、自分の経験していない感覚は想像できないと割り切って、別物と考えて、じゃあ、どうしたら助けになるか、そっちを考えることの方が、先決だったんです。

「行動には、必ず原因があるということが、改めて確認できました。」

自閉症のお子さんを持つお母さんが、自分に言い聞かせるように話されてました。

自閉症の行動の不可解さの裏には、今回の、この「ヘッドマウントディスプレイ型ASD視覚体験シミュレータ」で体験した、このような視覚体験があることを多くの方が自分のことのように納得されていました。

パニックになって教室を飛び出したり、一人で遊んで、寂しそうに見えたとしても、周りが困ったことと捉えないことが大切ですね。

私は自閉症です

参加者の中にお一人だけ、「私は自閉症です」という方もいらっしゃっいました。晴れた明るい日は、外に出られないとか・・・。外出時にはサングラスをするんですが、刻々と状況が変わるので、それだけでは対応できないと話されていました。普通は、晴れた日は、ぽかぽかのお散歩日和!おひさまの陽を浴びて、気持ちい〜、はずなんですが、そうじゃなかったんだ・・・無理やり外に出ようと誘って悪かったなぁ、自閉症の子供とお母さんを公園に誘った時のことを思い出しました。

そして、印象的だったのは、違和感を常に持ちつつ、生きている辛さを抱えているんだけど、その原因がなんであるか、当事者自身でさえも気づいていないことがあると言われていたことです。自分の感覚は自分だけのもので、生まれたときからその感覚ですから、あれ、人と違うのかな、どうなのかな、と悩みつつも、本人さえも、認識できずに生きてきた、なんてことがあるようなんです。

また、あるお父さんは、お子さんが生まれて、自閉症と診断されて、

「自分の中にも自閉症の部分があるのではないか」

と気づいたと話されていました。

自閉症スペクトラム症は、スペクトラム(連続体)という概念で捉えられていますが、もしかしたら、誰の中にも自閉症スペクトラム症の種みたいなものがあるのかもしれません。脳内の神経回路の使い方によっては、異なる見方が何通りでもできるように思います。

自閉症と診断された人たちは、過度な部分が顕著に見られただけで、多くの人々との社会的な共通点が少ないから、コミュニケーション能力が低いとなって・・・。

自閉症の人が社会とコミュニケーションするには・・・

また、昨今、障害者を雇用しようという動きがありますが、自閉症の人の多くが、なんども転職を余儀なくされているという話もよく聞きます。

今回、海外の自閉症の人の事例が紹介されましたが、コミュニケーションが苦手な自閉症の人であっても、彼らに最適な職種があって、職場の理解があって、一般の人以上に高い能力を発揮していました。見落としがちなことでも、彼らは注意深く、決して見落とさないんです。まさに適材適所です。うまくいく仕組みさえあれば、いいだけなんです。実際に自閉症の方が、どのように仕事をされているか、わかりやすい動画があったので紹介します。

朝日新聞GlOBEの2017年3月号特集「自閉症を旅する」より  https://youtu.be/uGKecwL889c

見えなかった世界が、見える世界へ

今回のワークショップの特質すべき点は、なんと言っても「ASD視覚体験シミュレータ」の存在です。VR体験することで、自閉症の世界が肌感覚で体感できたのです。自分のことのように感じられたことが、何よりも圧倒的な体験でした。実体験の強みがそこに歴然としてあったのです。

カラダが体感する、自分の感覚に刻まれる揺るぎない印象、そのことから、より切実な心からの肉声になって発せられたと思います。

自閉症の人の苦悩を、より広く世の中の人に知ってもらいたい!という願いが生まれたと思います。

その願いは、今回のワークショップ参加者の総意と言えるかもしれません。間違いなく全員が思ったのは、このような装置がもっと、教育現場や職場に広がって、社会に認知されるようになって、障害の理解につながれば・・・ということでした。その機会があれば、自分も積極的に活動していきたいという声が多く聞かれました。

また、さらに装置の開発研究にも大いに期待が寄せられ、今度は、視覚だけでなく、聴覚についても実験がなされるとのことでした。

VRでの体験は、自閉症の人の視覚世界を、よりリアルに体感できるので、体験者の体に印象深く刻まれるように思います。自閉症の子のいるクラスで、自閉症の人がいる職場で、一度、みんなが体験してもらえたら、多くのことがいっぺんに理解できるのではないかなぁと思います。

そんな社会が当たりまえになるというのも、そんなに遠い未来ではないのかもしれません。

見えにくいものを可視化できるというのはテクノロジーの良いところですね。科学が見えない自閉症の世界を、見えるようにしてくれて、科学的な分析によって根拠も提示されて、障害者も、そうでない人も、双方の理解が深まるというのは、うれしいかぎりです。

これから、いろいろなところで、応用活用されることを期待します。

→「ASD視覚体験シミュレータ」の詳しい情報については、以下のサイトをご覧ください。
http://cognitive-mirroring.org/cognitive-mirroring/asd-simulator/

コメントを残す

*