某テレビの情熱大陸、好きでよく見るのですが、そこで、若干二十歳のドローンパイロット高梨智樹くんが特集されていました。
映像の中の彼は、実にいい笑顔!
好きなことを仕事にして生きていけるっていうのは、いいなぁ・・・
微笑ましく思って見ていると、番組後半になって・・・おやっ・・・
パソコンに向かう高梨くんは、音声を頼りに説明書を読んでいました。
そこに、「読み書き障害である」というナレーションが・・・
彼曰く、「読んでいると、最初の方を忘れちゃって・・・音声で聞くとわかるんですけど。」
彼の笑顔にオーバーレイするように重なる「読み書き障害」・・・
私の興味は一気にディスレクシアに引き寄せられていきました。
ディスレクシアって?一体どんな障害なの?
ディスレクレアってどんな障害?
ディスレクシア(発達性読み書き障害)とは・・・、
- 眼や耳などの感覚器に障害がない
- 会話もできる
- 充分な教育環境にいる
にもかかわらず、「読み書き(文字情報の処理)」だけが、うまくできないという状態の人です。
「読み書きできない」というところを、もう少し詳しく解説すると・・・
- 文の中の単語が識別できない、区切りが分らない
- 単語の読みが遅く、正確に読めない、すらすら読めない
- 文字や文字列を音声に変える作業が遅く、間違いも多い
- 文字と音声との対応作業が困難である
- 綴り(書字)の弱さも併存する
- 文字が滲んだり、バラけたり、ねじれて見える
- 鏡文字を書く、まっすぐに書けない
- 似た音を聞き誤る
・・・となりますが・・・一体なんのことやら・・・。
これ、こんなふうに症状を一覧に整理されたとしても・・・
一体なんのことを言っているのか・・・正直、ピンと来ないと思いませんか?
最初、私は、このディスレクシアという障害を、なかなか理解できませんでした。
文字が歪むってどういうこと?
なぜ鏡文字を書いちゃうの?
書いてあることが読めないってどういうこと?
私たちは、目に飛び込んできた文字を、読もうと思っていなくても読んでしまいます。
かえって、目についたものを読まないという選択肢がないくらいです。
文章を書くときも、何気なく出てきた言葉をメモしたり、タイピングしたり、「読み書き」は、無意識にやっていることで、私たちの毎日に、完全に自動化して入り込んでいます・・・。
息をするぐらい自然なことと言ってもいいでしょう。
なので、「読み書き」に苦労している人たちがいるなんて、想像が及ばないんですよね。
(突然、アラビア語圏に、単身赴任を命じられたお父さんだったら、その気持ちがわかるでしょうか???)
わかりにくい障害であることは否めません。
今だから、ディスレクシアの研究も進んできたでしょうが、これが一昔前だったらと考えると・・・
知的障害と一緒にされたり・・・あるいは、精神的な病として見逃されたり・・・理解されないまま、まったく違う障害にされていたことでしょうね。
経年の研究成果が実を結び、ディスレクシアの多くに共通点があることが分かってきたのは、ここ20年ぐらいのことです。
前提として「音と文字をつなげる能力(音韻認識)が弱い」ということがあり、その結果として、その人それぞれの千差万別な症状(前述のリスト参照)が付随して発現すると言われています。
音韻認識とは・・・
単語がいくつの音のかたまりに分かれているかが分かり、単語でどの音が どの順に並んでいるかが理解できること。 日本語で音韻認識ができるようになるのは 通常4歳半頃。平仮名が読めるようになる前に必要な力である。
「周囲にある様々な音を、ことばとして聞き取り→意味を理解し→それを言語として並べることができる」、そんな段階的な作業に分解できるでしょうか。
この段階的な行程には、神経網の連なりが連想されますよね。
では、次に、このディスクレシアの元になる「音韻認識の障害」は、脳のどこがどうなって起きるのでしょうか?
順にみていきましょう。
なぜディスレクシアになるの?
ディスレクシアは、言葉自体が分からないわけではありません。
でも、「読む書く」となると、途端に分からなくなってしまうんです。
ピンポイントな脳の障害と言えます。
近年の脳内を撮影する技術は、この問いに答えられるぐらい進歩してきました。
ディスレクシアは、健常者に比べると、左側頭葉の活動量が低下しているというのです。
左脳が「読み書き」に関わる言語脳というのはよく知られていますよね。
左脳の側頭部が関連しているというのは納得できる話です。
ふーん、じゃあ・・・左側頭葉があんまり活動していないというのは、どういう状態でしょう?
この不活性の直接の原因については、「大脳皮質の灰白質の異常配置による」、という実験結果が出ていますね。
灰白質とは、脳の表面の神経細胞が集まっているところです。
それが、ある部分では密集していて、別の箇所では希薄になっているという・・・
灰白質が希薄な部分=脳の活動が低下している部分、ということが明らかになっています。
では、次に起こる疑問は、当然「なぜこのような、灰白質の異常配置が起こるのか?」ですね。
この問いの答えは、胎児の大脳皮質構築形成過程が研究されたり、ディスクレシアの検死解剖などから、神経が作られる過程でニューロンの配置ミスが起きたのではないかとされています。
つまり、特定の遺伝子の異常が関連しているのではないかということですね。
近年の遺伝学の研究により徐々に明らかになってきていますが、まだまだ研究段階です。
ディスレクシアと日本語
ディスレクシアの研究の多くは、海外のもので、主にアルファベットを用いた言語が対象です。
じゃあ、日本においてのディスレクシアはどうなっているんでしょうか?
言語の違いによって、障害の現れ方も違ってくるだろうというのは、想像できることですよね。
ディスレクシアの発症率を比べてみると、英語圏での10~15%に対し、日本では4~5%、と明らかに低いんです。
言語圏によって発現率が異なるのは、とても興味深いですよね。
この発現率の低さは、日本語の特徴によるものと指摘されています。
日本語は、一文字に対して一つの音が対応しています。
たとえば、ひらがなの「た」は、「た=TA」以外の読み方がないんです。
日本語は、相当音韻認知しやすい言語なんですね。
そのために、かえって症状があらわれにくいとも言われていて、実際、実感がないまま育ち、大人になってから気づいたという人も少ないないそうです。
このような環境にあってか、日本語圏のディスレクシアの研究は、非常に少ないのですが、近年、日本においても脳画像を用いた研究が行われるようになりました。
日本語が母国語のディスレクシア児を対象にした実験です。
そこで報告されたのは、大脳基底核で過活動でした。
興味深いことに、この大脳基底核という部位は、アルファベット語圏では、ほとんど指摘されてこなかったところです。
そう言えば、日本語脳という発想をした研究者の方がいましたね。
虫の鳴き声を言葉として聞くという・・・、言語によって、脳内の活動部位も違っているということですよね。面白いですね。
ディスレクシアの有名人
結構多くの有名人が「ディスクレシアである」と、告白しています。
現在のようにディスクレシアが認知されてきたのも、俳優のトム・クルーズやスピルバーク監督など、著名人のカミングアウトが大きく影響しているでしょう。
彼らが現在のように活躍しているのは、障害を克服してきたからですね。
彼らの存在が、同じディスレクシアを持つ人たちに、まぎれもなく勇気を与えてくれています。
また、ディスレクシアの人は、左脳が不活性である一方で、それを補うように、右脳部位が優位であるとか・・・
ディスレクシアの人は、独創性や対人能力、空間把握力に優れた人が多いとも言われています。
ディスレクシアが治ることはありませんが、一概に困難ばかりを見るのではなく、逆に非凡な才能!と捉えるのもありだと思います。
それには、周りの人の理解が不可欠でしょう。
今回、情熱大陸で紹介された高梨智樹くんの活躍も、ご両親、特にお父さんの理解が大きな活力となっていると思います。
引きこもりがちだった彼が、唯一夢中になったのはドローンでした。
お父さんとドローンの会社を起業して、彼は自分の才能を十分に伸ばせる環境を得られたのだと思います。
好きなことをしている人は、生き生きしていますよね。
生き生きしている息子とともにいるお父さんも、きっと幸せに違いありません。
まとめ
言語と脳の関連については、前々から興味があったこともあり、今回は、ディスレクシアついて調べてみました。
そして、調べた結果、ますます興味が湧いてきました。
レオナルド・ダ・ヴィンチ、グラハム・ベル、エジソン、オーギュスト・ロダン、アントニオ・ガウディ、アインシュタイン・・・
結構な数の偉人と言われる人たちが、実は軽度のディスレクシアだったとも言われているんです。
ひょっとすると、ディスレクシアは、別の才能にとっては、好都合だったとか・・・。
それに、人間の脳は、もともと文字を読む回路をもっていなかったとも考えられています。
言葉を話し始めて、それを表すアイコンや文字が作られ、さらに文字の並びを視覚的に見るようになって、それで、脳は後付けで、読むという機能を獲得するようになったとか・・・そして、気が付いたら、かなりの長文、本というものを読むようになっていた・・・とか・・・
そう考えたら、読み書き障害は、そんなに理解できない障害でもないのかもしれません。
また、脳は、意味のある文字や単語を見いだしたときに、ニューロンの活動をいつもの倍ぐらいにまで増幅するといいます。
活性化するには、キッカケが必要というわけで、ディスレクシアの左脳側頭部の不活性化は、キッカケの与え方によって変わるのかもしれません。
興味深いことや疑問が、次々に湧いてきました。
このテーマ、もうちょっと、掘り下げていきたいと思います。